ヒロアカに期待すること

ジャンプ連載の『僕のヒーローアカデミア』は、連載開始の一話目から、ジャンプメソッドばりばりの最大風速を見せて、頭角を表した人気漫画です。巻数もずいぶんと出ていて、アニメ化もしているにも関わらず、一部では少し過大評価という声もあります。

 

僕は結構肯定派で楽しく読んでいますが、そうはいっても納得いってないところや期待しているところがあるので、そのあたりを紹介したいと思います。僕がいまのヒロアカに足りていないのは「対応関係の弱さ」と思っています。実は、一話で見せた「最大風速」という強みとこの「対応関係の弱さ」は表裏一体なところがあると思っていて、そのあたりにも触れられたらと(ネタバレ含みます)。

 

 

まずヒロアカの強みである「最大風速」について。これは言い換えれば、シーンづくりのうまさです。登場から注目を浴びることになった第一話では、「デクがかっちゃんを助けるために飛び出すところ」「マイトがデクにヒーローになれると話すところ」がでかい盛り上がりどころです。第一話なので、物語として複雑な対応関係はまだ登場しません。ただ、それ以降も盛り上がりをみせているのは、ところどころのシーンでしかないように思います。「デクと轟が戦うシーン」 「デクがコウタを助けるシーン」といった具合に。それぞれ物語を通じた盛り上がり(あの●●とあの●●が、あの事件をこえて、●●する、のような具合)ではなく、セリフやコマ割などの匠さによるシーンとしての魅力にすぎません。

 

ヒロアカがさらに面白くなるために必要なのは、シーンづくりではなく、シーンをこえた物語としての面白さです。それはつまりキャラクター同士の立場やバックグラウンド、敵対勢力との対立構造などといった対応関係が綿密であることです。

 

同じジャンプでもこうした対応関係をうまく見せている漫画は、ワンピースやナルトでしょう。そして、だからこそこの二作が看板作品として連載されてきたのです。ナルトでの明確な対応関係は、落ちこぼれのナルト:天才のサスケ、ですね。この二人の因縁が血筋や里を巻き込んで、物語の火種として大きく展開していくわけです。このへんはいつか詳細に話をしたいですね。

 

さて、僕がはじめにヒロアカに抱いた対応関係への疑問は、敵対するヴィラン勢力の核であろう「死柄木弔」の生い立ちでした。ざっくりいうと死柄木は、デクの師匠であるオールマイトの師匠の息子さん(闇落ち)なのですが、これが非常にひっかかる。敵対勢力との対立関係について、順をおって対応関係を明らかにみていくと

 

A  ヒーロー   : ヴィラン

B  オールマイト : オールフォーワン(先生)

C  デク     : 死柄木

となっていますね。ここまでは対応関係がわかりやすいですね。作中でも、師匠であるBの二人が弟子をどう育てるかということ思想を披露する場面があります。ここをわざわざ披露して、それぞれで食い違わせるのは、対応関係を物語のなかに組み込もうとする意思の現われです。

 

ただ死柄木の生い立ちは、なぜか対応関係で違う階層にあるオールマイトとの因縁になっています。現時点では、この設定は無駄が多い設定ではないかと僕は思っています。というのもいずれ(半分もうさしかかってますが)師匠クラスがいなくなり、弟子クラスであるC階層が想いを継承し物語の軸として、対立を強めていったときに、この二人にはさほど因縁がないため、「敵同士だから敵対している」にすぎず物語として単純すぎてしまい、熱さに繋がりにくいのです。

 

これは冒頭で紹介したヒロアカの強みである「最大風速」と異なる地点にあります。おそらく今後もこうした対応関係が不足したまますすんでいくと、なんとなく死柄木が悪いことをして、それにたいしてデクがその場でなんとなくかっこいいことをいって、一瞬だけ盛り上がる、ということになりかねないと思います。